事業を続けていく以上、資金調達をしなくてもよくなる日は来ないと考えてかまいません。
そのため、どのタイミングで、どうやって資金調達をするかを考えるのも、経営戦略上非常に重要な課題となります。
今回の記事では、返済不要の資金調達法を4つ紹介します。
それぞれの方法について、メリットとデメリットも併せて解説するので、資金調達を検討する際にお役立てください。
1.ベンチャーキャピタルからの出資
ベンチャーキャピタル(VC)とは、未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンドを指します。
会社の成り立ちを基準に種類を分けると、以下のようになります。
金融機関系VC | 証券会社や銀行などの金融機関が母体となっているベンチャーキャピタル |
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独立系VC | 特定の親会社がなく、独自資本で運営しているベンチャーキャピタル |
政府系VC | 公的資本を元に投資を行うベンチャーキャピタル |
大学系VC | 大学が設立母体となり、企業に投資を行うベンチャーキャピタル |
地域系VC | 特定の都道府県、市町村にある企業を対象に投資を行うベンチャーキャピタル |
事業会社系VC | 事業会社が母体となり、企業に投資を行うベンチャーキャピタル |
ベンチャーキャピタルからの出資を受けるメリット・デメリットについて解説します。
メリット
返済義務がないこと以外のベンチャーキャピタルを利用するメリットとして、以下のことがあげられます。
- 経営に関する有益なアドバイスが受けられる
- 事業提携先の紹介を受けられることもある
- 将来的に金融機関から融資を受ける際に有利になる
それぞれのメリットについて、より具体的に解説します。
経営に関する有益なアドバイスが受けられる
ベンチャーキャピタルから出資を受ければ、経営に関する有益なアドバイスも受けられるようになります。
スタートアップ企業やベンチャー企業の経営陣の中には、自身が手掛ける事業や持つ技術における知識は卓越しているものの、経営に関するスキルやノウハウが不足しているケースも少なくありません。
特に、学生起業など年齢が低い段階で起業した場合は、社会人経験そのものが乏しい状態にあります。
このような場合、役員の派遣などベンチャーキャピタルが経営に参画することで、経営において求められるスキルやノウハウを学ぶことが可能です。
自社事業の確認や見直し、スタッフが増えた場合の望ましいマネジメントの在り方など、会社を大きくしていく上で重要なことを身につけられるでしょう。
担当者に相談すれば、使える経営資源やアイデアを提供してくれるはずです。
このようなアドバイスやアイデアの提供は、経営コンサルタントに頼むとかなりの費用が掛かります。
しかし、ベンチャーキャピタルの担当者からであれば、基本的に費用がかからないのも魅力でしょう。
事業提携先の紹介を受けられることもある
ベンチャーキャピタルを通じて、事業提携先の紹介を受けられることもあるのもメリットの1つです。
ベンチャーキャピタルは、さまざまなベンチャー企業やスタートアップ企業とのコネクションを有しています。
自社が出資している他の企業の動向も把握しているため、相乗効果が得られそうな提携先があれば紹介してくれるでしょう。
相乗効果が得られることで企業が成長し、上場を果たせれば、ベンチャーキャピタルにもより多くのキャピタルゲインがもたらされます。
双方にとってプラスになる話ではあるので、担当者から提案があった場合は、まずは聞いてみるのをおすすめします。
将来的に金融機関から融資を受ける際に有利になる
ベンチャーキャピタルから出資を受けたことが、将来的に金融機関から融資を受ける際に有利に働くのもメリットです。
前提として、ベンチャーキャピタルは将来成長が見込めて、上場できる可能性がある企業に対してしか、出資を行いません。
そのため、ベンチャーキャピタルからの資金調達に成功しているということは「成長が見込める企業」というお墨付きが得られたのとイコールになります。
成長が見込める企業であれば、融資したとしても、延滞・滞納のリスクは低いと考えられるため、審査にも通りやすくなるでしょう。
デメリット
一方、デメリットとして以下の点もあげられます。
- 上場したときに経営陣が得られるキャピタルゲインは少なくなる
- 経営に介入される
- 成果を出せないと出資の引き揚げもあり得る
それぞれについて、詳しく解説します。
上場したときに経営陣が得られるキャピタルゲインは少なくなる
ベンチャーキャピタルに出資してもらうと、上場したときに経営陣が得られるキャピタルゲイン(株式の取得額と売却益の差)は少なくなります。
出資の見返りにベンチャーキャピタルに株式の一部を引き受けてもらう以上、経営陣が保有できる株式が少なくなるためです。
経営に介入される
経営に介入されることを避けたいなら、ベンチャーキャピタルからの出資は受けないほうが無難でしょう。
ベンチャーキャピタルは出資した以上、上場の可能性を最大限に高めるため、さまざまな手段を講じます。
たとえば、役員の派遣もその1つです。
経営への介入は避けられませんが、それを「一緒に頑張ってくれる人」ととらえられるか「単に口をはさんでくる人」ととらえるかで、経営陣にかかるストレスは違ってくるでしょう。
このあたりは派遣されてきた役員と社内のスタッフとの相性にもよるので何ともいえません。
すでに触れた通り、ベンチャーキャピタルの従業員、役員の中には、大手金融機関や大手事業会社でのキャリアが長い人もたくさんいます。
そのような人が担当になった場合、ベンチャー企業やスタートアップ企業ならではの独自の事情を理解できず、見当はずれなアドバイスをしてくるかもしれません。
前向きに話し合えるなら問題ありませんが、そうでない場合はかなりのストレスが溜まるでしょう。
成果を出せないと出資の引き揚げもあり得る
成果を出せないと出資の引き揚げもあり得る点にも注意しなくてはいけません。
極論すると、ベンチャーキャピタルが出資する目的は「将来上場した際に株式を売却し、売却益を得ること」のみです。
出資先企業の成果が芳しくなく、上場できる見込みがないと判断されたら、出資の引き揚げが行われるのも珍しくありません。
返済義務こそないものの、成果を出し続けないといけないことには変わりないでしょう。
2.エンジェル投資家からの出資
エンジェル投資家とは、創業間もないスタートアップ企業やベンチャー企業に対して投資をする個人投資家を指します。
元実業家や大手企業の経営者・役員などが、エンジェル投資家として活動することも多くなっています。
先ほど紹介したベンチャーキャピタルと同様、究極的な目的は「将来上場した際に株式を売却し、売却益を手にすること」ですが、あくまで個人でやっている点が大きな違いです。
エンジェル投資家から出資を受けるメリット・デメリットについて解説しましょう。
メリット
エンジェル投資家からの出資を受けるメリットは以下の通りです。
- 経営に関する有益なアドバイスを得られる
- 人脈を広げられる
経営に関する有益なアドバイスを得られる
エンジェル投資家から出資を受けることで、経営に関する有益なアドバイスが得られます。
すでに触れた通り、エンジェル投資家は元実業家や大手企業の経営者・役員など「その道のプロ」であることが大半です。
永年の経験から「こうすればうまくいく」といったビジネスにおける勘所を熟知しています。
経験に基づく的確なアドバイスを受けられるのは、エンジェル投資家から出資を受ける大きなメリットの1つです。
人脈を広げられる
エンジェル投資家が自身の経営者仲間など、ビジネスにとってプラスになりそうな人を紹介してくれることは珍しくありません。
中には、到底接点を持てなさそうな人を紹介してくれることもあります。
デメリット
一方、エンジェル投資家から出資を受けるデメリットは以下の通りです。
- 調達可能額はあまり多くない
- 経営に過度に介入される恐れがある
調達可能額はあまり多くない
実際のところ、エンジェル投資家から調達できる額はそう多くありません。
具体的な額は個々のケースによっても異なりますが、100万円~1,000万円程度とされています。
アイデアと人柄がよければスピーディーに資金調達ができますが、あくまで個人でやっていることであるため、調達可能額もそう多くないと考えましょう。
経営に過度に介入される恐れがある
経営に過度に介入される恐れがある点にも注意が必要です。
エンジェル投資家の多くは「これから会社を大きくしようとする人を応援したい」という想いで出資をしています。
そのため、単に出資をするだけでなく、有益なアドバイスを提供しようと精力的に動いてくれる人も多いでしょう。
しかし、親切を通り越して「過度な経営への介入」に取られるほど動く人もいるので注意が必要です。
対応に時間を取られすぎる場合は「必要な時は相談させてください」など、適度な接触にとどめてもらえるよう交渉する必要が出てきます。
交渉がうまくいかないとトラブルのもとになるため、細心の注意をしたいところです。
3.クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、群衆を意味する「クラウド」と資金調達を意味する「ファンディング」を合わせた造語です。
Web上でプロジェクトを公開して寄付を募り、資金調達を行うことを指します。
見返り(リターン)として自社の商品やサービスを割安で提供したり、お礼状やメールを出したりなどするのが一般的です。
なお、クラウドファンディング自体は2000年代のアメリカで始まりました。
2008年にサービスを開始した「Indiegogo」や2009年にサービスを開始した「Kickstarter」が有名です。
日本でも、2011年3月に発生した東日本大震災を契機に、クラウドファンディングが広く知られるようになりました。
「READYFOR」や「CAMPFIRE」など、さまざまなクラウドファンディングサービスが運営されています。
メリット
クラウドファンディングのメリットは以下の通りです。
- 基本的に利用制限がない
- 希望調達額以上の資金調達に成功するケースもある
それぞれのメリットについて解説します。
基本的に利用制限がない
クラウドファンディングの特徴として、基本的に利用制限がなく、誰でも利用できる点が挙げられます。
法人はもちろん、個人であっても利用可能です。
もちろん、法律や公序良俗に反するプロジェクトのために利用することはできません。
希望調達額以上の資金調達に成功するケースもある
プロジェクトの内容に賛同や共感が得られれば、希望調達額以上の資金調達に成功することもあり得ます。
プロジェクトの公開に先立ち、紹介ページをていねいに作りこんだり、公開されたらSNSで拡散したりなどの工夫を凝らしましょう。
デメリット
一方、クラウドファンディングのデメリットは以下の通りです。
- 1円も調達できない可能性がある
- プロジェクトの内容や終了後の対応次第では炎上するリスクもある
それぞれについて、詳しく解説しましょう。
1円も調達できない可能性がある
すでに触れた通り、クラウドファンディングでは希望額を大きく上回る資金調達ができる可能性がある一方、1円も調達できない可能性もある点に注意が必要です。
クラウドファンディングを「希望額に達しなかった場合の扱い」を基準にすると、以下の2種類に分けられます。
- All-or-Nothing方式:設定した希望調達額に達しなかった場合は資金調達できず、集まった額は全て出資者に返金する。
- All-In方式:設定した希望調達額に達しなかった場合でも、集まった額の資金を調達できる(払い戻しはしない)。
All-or-Nothing方式をとっていた場合、設定した希望調達額に達しないと1円も調達できないことになります。
All-In方式であれば集まった額を資金調達できるものの、そもそも出資者がいなかった場合は1円も調達できません。
プロジェクトの内容や終了後の対応次第では炎上するリスクもある
プロジェクトの内容や終了後の対応次第では炎上するリスクもある点に注意しましょう。
具体的には、以下の点に注意してください。
- 単に経営者の個人的な費用として使うための費用を集めていると判断された
- 出資のお礼(リターン)の手配・配送に遅延が生じた
SNSに複数のクレームが書き込まれるなどして、事業活動にも影響を及ぼす恐れがあります。
プロジェクトを公開しても問題ないか、クラウドファンディングサービスの担当者や弁護士など専門家の意見を聞くとともに、想定外のトラブルが生じた場合は誠実に対応しましょう。
4.補助金・助成金
補助金や助成金は、国や地方自治体などが企業に対して支給する資金のことです。
一般的に、助成金は条件を満たせば基本的に受給できるのに対し、補助金は審査があるため採択されない場合もあります。
実際は、補助金に近い意味合いのものを助成金と称していたり、逆のパターンもあったりするため、参考程度に考えておきましょう。
なお、補助金や助成金の情報を探すには、経済産業省と中小企業庁が共同で運営している「ミラサポplus」が便利です。
自社が抱えている課題に応じて支援制度が探せます。
参照:ミラサポplus
メリット
補助金・助成金のメリットとして、以下のことが挙げられます。
- 種類が豊富にあり、 資金調達が必要な時に申請しやすい
- 自社の技術力、ビジネスプランを見直す機会になる
種類が豊富にあり、資金調達が必要な時に申請しやすい
国や地方自治体が運営する補助金や助成金は、非常に種類が豊富です。
1年を通じて、さまざまな補助金や助成金の募集を行っているため、資金調達が必要になったタイミングで自社が使えそうな制度を探してみましょう。
自分だけで探すのが難しい場合は、税理士や中小企業診断士などの専門家や金融機関の担当者に聞くとよいでしょう。
また、中小企業庁や経済産業省、地方自治体や商工会議所、法人会などの無料相談を使うのも1つの方法です。
参照:ミラサポplus「経営者を助ける経営サポートの専門家 支援者・支援機関に相談しよう!」
自社の技術力、ビジネスプランを見直す機会になる
補助金・助成金の申請をする際には、事業計画書などさまざまな書類を作成しなくてはいけません。
自社の技術力やビジネスプランを的確に伝えなくてはいけないため、自然と見直すことになります。
事業の棚卸にもつながり、改善点も見えてくるはずです。
デメリット
一方、デメリットは以下の通りです。
- 基本的に後払い
詳しく解説します。
基本的に後払い
補助金・助成金は基本的に後払いです。
申請の際に提出した内容に従って補助・助成の対象になる事業を進め、完了したら報告をします。
問題がなければ、補助金・助成金の受給に移るのが通常の流れです。
つまり、基本的に後払いとなるため、一度自社で立替払いをしなくてはいけません。
立替払いをするだけの資金がなければ、補助金・助成金の受給は現実的に不可能でしょう。