企業経営を軌道に乗せ、また成長させていくためには、資金調達を適切に行っていく必要があります。資金調達とは、本業ビジネスで得られる売上・収益以外から資金を獲得する手法で、主にデットファイナンス、エクイティファイナンス、アセットファイナンスが存在します。また、補助金・助成金を通じて資金調達をすることも可能です。
この記事では企業の資金調達の基本的なポイントや、調達手法ごとのメリット・デメリットなどを紹介していきます。企業経営をしている方は、ぜひ参考にしてください。
企業における資金調達とは?
企業における資金調達とは、企業経営に必要な資金を得ることを指します。企業を順調に成長させるためには、適切に資金調達を行って、ビジネス規模の拡大や経営の安定化を図ることが大切です。まずは、企業における資金調達の意味合いや目的、手法などをみていきましょう。
資金調達とは、本業の利益以外で資金を獲得すること
企業の資金調達というと、ほとんどの場合は本業の売上や利益以外で資金を獲得する活動を意味します。
たとえば小売店であれば、商品を現金販売すれば資金が手に入りますが、これを資金調達ということはありません。一方で、銀行から資金を借りたり、株式を発行して投資家から資金を募ったりといったように、本業のビジネスサイクル以外の部分で資金を獲得する方法を、全般的に資金調達といいます。
資金調達の目的
資金調達の目的は企業の経営状況や事業戦略によってさまざまですが、大別すると次の5つに分類されます。
- 新規事業の立ち上げ
- 運転資金
- 事業の拡大
- 企業の買収
- 経営危機からの脱却
新たなビジネスを一から計画して、実行に移すためには、多額の資金が必要になります。そのため、経営者や企業が持つ自己資金では足りない場合が少なくありません。そのような時に企業は外部から資金調達を行います。創業まもない企業が、新規事業を軌道に乗せるために行う資金調達もこの調達目的の一種と言えるでしょう。
ビジネスの規模や業種によっては、事業を継続的に運営していくために資金調達をしていかなければならない場合もあります。大手企業でいうと、電力会社は多額の石油・ガスなどエネルギーを継続的に購入したり、大規模な施設を維持・管理したりするために継続的な資金調達が欠かせません。
また、比較的規模の小さい企業でも、建設会社などは契約後、売上を計上する前に多額の建設コストがかかるため、つなぎの資金調達が必要となる場合もあります。
企業を急成長させたり、多角化させたりするうえで、M&Aはしばしば有力な選択肢となります。買収する企業や事業の規模次第では、売上や利益から得る資金だけでは到底足りないため、M&Aを実現するために資金調達を行うケースも少なくありません。
最後に、企業の経営が危ぶまれ、自然に売上を計上するだけでは企業存続がままならない時に資金調達をする企業もあります。この目的での資金調達は、再建計画を建てる余地があるタイミングで早めに資金調達の準備を始めるのが肝心です。
再建が見込めない企業に対して資金を出してくれる人はそうそういないため、手遅れになれば、資金を手当てできずに倒産してしまうでしょう。
資金の出し手
企業の資金の出し手にはさまざまな主体があります。資金調達の方法によって資金の出し手も変わってきますが、次のような主体がその企業の安定性や成長性を信任すれば、資金を出してくれるでしょう。
- 個人投資家
- 保険会社・年金運用機関などの機関投資家
- 銀行・信用金庫・農協などの預金金融機関
- ベンチャーキャピタル・PEファンドなどのファンド
- 自治体や公共団体
- 他の企業
- 補助金・助成金
- 自己資金
- 財務規模を大きくしてレバレッジ効果が得られる
- 経営権を握られる心配がない
- 節税効果が得られる
- 財務体質が悪化する
- 利払いコストがかかる
- 期限までに返済しなければならない
- 担保や保証付与が必要な場合も
- 銀行をはじめとした金融機関からの借入
- 社債発行
- ソーシャルレンディング
- 知人などからの借入
- 返済の必要がない
- 配当の水準をある程度自由に決められる
- 財務の健全性が高まる
- 経営の効率性が下がる恐れがある
- 経営権を握られるリスクが高まる
- M&Aなどのリスクが高まる
- ファンド・エンジェル投資家からの出資
- ソーシャルレンディングによる出資
- 増資
- 利払も配当も発生しない
- 迅速に資金調達ができる場合がある
- バランスシートの圧縮になる
- 売却できる資産がなければ実行できない
- 手数料が高額もしくは売却額が低く評価されるリスクがある
- 資産売却
- ファクタリング
- 事業売却
- 自己資金
- 助成金・補助金
- 日本政策金融公庫からの借入
- エンジェル投資家・ファンドからの出資
- 資産売却
- ファクタリング
- 助成金・補助金
- 政府系金融機関からの支援
- 増資
- LBOなどの借入
- 銀行融資
このうち個人及び機関投資家は、主に企業が発行する有価証券の購入を通じて企業に資金を提供します。預金金融機関や一部の機関投資家は、企業への融資という形で資金を拠出するケースが多いです。
ファンドは、そのファンドが得意とする投資先にもよりますが、株式の保有を通じて出資するケースが多いです。自治体や公共団体は補助金や助成金を支給するほか、融資の形式で資金を提供する場合もあります。
最後に事業や資産の売却を通じて資金調達をする場合もありますが、その時の売却先は他の企業であるため、他企業が別の企業の実質的な資金の出し手となる場合もあります。
一般的な傾向としては、スタートアップもしくは創業後まもない企業は資金調達手段が限られていて、企業が大規模化すればするほど、資金調達の選択肢は増えていきます。また、経営が安定している企業の方が資金調達をしやすいという傾向もあります。
投資家や金融機関などの資金の出し手は、企業の成長や事業の継続性を信用して資金を拠出します。一方で、創業まもない企業や経営が危ぶまれる企業に対して信頼して資金を出す人は少ないため、このような傾向がみられるのです。
4つの資金調達方法
企業の資金調達の方法は大きく分けて4つのタイプがあります。それぞれのタイプの詳しい資金調達方法は後半で詳しく紹介しますが、まず4つのタイプの資金調達方法をおさえておきましょう。
デットファイナンス(負債調達)
一つ目は、企業のバランスシートにおいて「負債」部分を増やすデットファイナンスです。負債とはいわゆる借金=他者から借りたお金で、借りた相手には定期的に利息を払いながら、決められた期限までに資金を返さなければなりません。
万が一借金を期限までに返済できなければその企業は倒産することになります。そのため、負債の比率が高すぎる企業は財務体質が悪いと評価されます。
負債調達における資金の出し手にとっては、定期的に受け取る利払が投資収益の源泉となり、株式のようにキャピタルゲインはあまり期待できません。そのためこの資金調達手法において、投資家は利払いや債務返済の確実性を重視して、投資判断を行うことになります。
エクイティファイナンス(株式調達)
続いてはバランスシートの「純資産」もしくは「株主資本」を増やすエクイティファイナンスです。エクイティとは株式のことであり、端的に言えば株式発行により資金調達をする方法となります。
一部の特殊な株式を除いて、株式は返済の必要がありませんが、保有比率に応じて企業の経営に参加したり、利益分配を受けたりする権利を持ちます。利益分配の方針はある程度企業が決めることができるものの、配当や株主優待などを払う場合には、株主に支払うコストが企業にとって重い負担になる場合もあります。
株式は企業が成長すれば配当が増加、また株価が上昇し株の投資家にとって収益の拡大につながります。そのため株式への投資判断において、企業の信用力だけではなく、将来の成長性も加味されます。
アセットファイナンス(資産の現金化)
三つ目の手法は企業が保有する資産の現金化です。この手法では企業のバランスシートにおいて左側に記載されるいずれかの資産が、同じく資産の一つである「現金」に置き換わることになります。もしその現金を負債の返済に充てた場合は、バランスシートの規模自体を圧縮することになります。
アセットファイナンスでは利息・配当の支払いは発生しません。その代わり、そもそも現金化できる資産がなければ、この手法は取ることができなくなります。
その他の資金調達方法
ここまでの資金調達方法のいずれにも属さない資金調達方法として、次の二つがあります。
地方自治体や政府系の金融機関などは企業のフェーズや業種、社会貢献性などによって補助金や助成金を出す場合があります。また、規模の小さい企業であれば、経営者自身の自己資金を企業に充当してしまう場合もあります。これもここまで紹介したどの方法とも異なる資金調達と言えるでしょう。
デットファイナンス(負債調達)のメリット・デメリットや具体的な手法
一般的には借入や借金に当たる負債を通じた資金調達です。自己資本よりも財務規模を大きくすることでレバレッジをかけられるメリットがある一方、財務体質の悪化リスクや利払いコストの発生などのデメリットがあります。また、手法としては金融機関からの融資のほか、社債発行、ソーシャルレンディングの活用などが考えられます。
デットファイナンス(負債調達)のメリット
デットファイナンスのメリットは次のような点です。
デットファイナンスで負債を増やすと、自己資金や株主資本などから構成される純資産の規模に対して、企業のバランスシート全体が大きくなります。すなわち少ない自己資金でより大きな規模のビジネスが行えるようになるのです。
正常にビジネスが行われている限りにおいては、ビジネス規模が大きければ売上・収益も拡大すると期待されます。このように純資産の規模に対してバランスシート全体の規模を大きくすることを「レバレッジ効果」といいます。利益と株主資本の比率で計算されるROEが高くなるため、節度を持ったデットファイナンスは経営効率の向上にもつながります。
また、社債やローン・融資の資金の出し手は、企業の経営に参加する権利は発生しません。借金を増やしても、経営基盤が揺らぐ心配は不要です。
最後に、負債に対する利払は企業の会計においては損金として処理されるため、節税効果があります。
デットファイナンス(負債調達)のデメリット
続いて、デットファイナンスのデメリットは次のとおりです。
レバレッジ効果と裏返となりますが、負債が増えると企業の財務体質は悪化します。すなわち環境変化に脆くなり、ちょっとした景気悪化や売上の減少から、大きなダメージを受けるリスクが高くなるのです。
また、負債は借金であるため、ほとんどケースにおいて利払をしていかなければなりません。支払いタイミングは毎月だったり、四半期もしくは半年に一度だったりさまざまですが、負債による資金調達額が大きいとその分利払いのコストも高くつきます。
ほとんどの負債は返済期限があらかじめ決められています。この期限を守って予定通り返済しなければ債務不履行となり、いわゆる倒産した状態となります。負債を増やしすぎて倒産する事態に陥らないよう、負債調達は節度を持って行う必要があります。
最後に、調達方法によっては不動産などの担保や、保証期間からの保証が必要な場合もあります。これは信用力の低い中小企業の場合に顕著です。そもそも担保に差し出す資産を保有していなければ、負債による調達余地ができない可能性もあるでしょう。
デットファイナンス(負債調達)の具体的な調達方法
デットファイナンスと言っても、次のようにさまざまな資金調達方法があります。
それぞれの資金調達方法について詳しく見ていきましょう。
銀行をはじめとした金融機関からの借入
負債調達として特に一般化しているのは、銀行など主に預金金融機関からの融資・ローンによる借入です。規模が小さければ日本政策金融公庫や信金などの地域金融機関からの借入、企業が成長してくると地銀、やがてメガバンクをはじめとした大手金融機関から借入を行うようになっていきます。資金の出し手は異なりますが、さまざまな規模の企業が盛んに取り入れる資金調達手法です。
社債発行
負債調達でありながら、多くの投資家から資金を集めることができるのが社債発行です。社債は主に保険会社、運用会社などの機関投資家向けに販売されますが、中には個人向けに発行される社債もあります。
また、社債の中でも企業が倒産したときの損失リスクがより高い劣後債、一定の条件のもと株式に転換する権利を有する新株予約権付社債など、さまざまな社債が存在するのも特徴です。通常のタイプの社債を、これらの社債とあえて分けて呼ぶ時には「普通社債」と呼びます。
社債発行においては、どのタイプを社債を発行すべきかも、企業の資金調達戦略において重要な検討材料となります。
ソーシャルレンディング
近年普及してきた資金調達手法で、ソーシャルレンディング業者が投資家から小口の資金を集めて、それを企業に融資する手法です。融資金には返済期限が設定されていて、また、企業は定期的にソーシャルレンディング業者に利息を支払わなければなりません。この利息は投資家に分配金として配分されます。
一般の銀行融資と比べると利率が高くなる傾向にありますが、新興企業などで、銀行融資を受けるのが難しい企業でも利用できるケースも少なくありません。
知人からの借入
知人や親族などから借金をして企業に充てる場合もあります。こうした知人・親族を通じた資金調達でも返済期限があれば「負債」の一種となります。
よほどの富裕層が周囲にいるなど、特殊な状況がない限り、知人から借りられる資金の規模は限られているため、一般的には創業まもない企業や開業準備資金などの目的で借入を行うケースが多いです。
エクイティファイナンス(株式調達)のメリット・デメリットや具体的な手法
続いて株式調達ですが、一部の特殊な株式を除いて負債のように返済の必要はありません。また、財務の健全性を高める効果も期待できます。一方で株式を他人に多く保有されてしまうと、他人に議決権を握られるため、経営基盤が不安定になる恐れがあります。
ここからはエクイティファイナンスのメリット、デメリットを紹介していきます。
エクイティファイナンス(株式調達)のメリット
エクイティファイナンスのメリットは次のとおりです。
通常の株式は返済期限の定めがないため、株がいくら増えたとしても、返済リスクを心配する必要はありません。もちろん倒産の心配もせずにすみます。
株主には配当や株主優待などを通じて利益還元を行いますが、この還元の規模については、ある程度企業に裁量があります。この点はあらかじめ定められた利息を必ず払わなければならない負債調達とは対照的です。新興企業においては将来の成長を加速させるために配当を行わないという経営スタイルを導入している企業も少なくありません。
ただし、株の配当支払いは株主還元の重要な要素です。利益が充分に出ているのに配当を出さないと株主からの評価が悪化し、株を手放す動きが進んで株価が低下したりといった弊害が出る場合もあるので注意しましょう。
最後に、財務の健全性が高まるのも株式による資金調達のメリットです。バランスシートに締める株の割合が拡大するため、環境変化などに強い相対的に健全な財務状況となるのです。
エクイティファイナンス(株式調達)のデメリット
続いて、エクイティファイナンスのデメリットとしては、次の点に注意しましょう。
デットファイナンスの裏返しで、エクイティファイナンスを多用すると自己資本比率が高くなります。これは財務が健全化した証である一方で、株主資本の規模に対してビジネスの規模が小さくみえ、「効率の悪い経営」と評価されるリスクもあります。
また、株式は過半数を一人が手にすると、実質的にその人に経営権が移ります。また、大株主が複数いると、その人の議決権の影響力が大きくなり、経営陣の意思をストレートに企業経営に反映しにくくなるリスクもあります。
M&Aによる被買収のリスクも高くなります。他者に一定量以上の株式を買い占められてしまうと、その企業は子会社となり、やはり経営陣の意思で企業をコントロールすることはできなくなります。発行株が多いと、TOBなどの手法を通じて企業の意思に反して買収が成立してしまうリスクがあるのです。
エクイティファイナンス(株式調達)の方法
エクイティファイナンスの調達方法は、発行した株式を投資家に割り当てることで行われるものですが、次のような種類があります。
それぞれの資金調達方法について詳しく紹介します。
ファンド・エンジェル投資家からの出資
比較的小規模な企業や成長過程にある企業においては、ベンチャーキャピタルやPEファンドなどが有力な出資者となります。その企業の成長性や収益性が魅力的であれば、ファンドからの出資による資金調達・ビジネス拡大が期待できるでしょう。
また、個人でも創業まもない企業の成長性や理念などを信頼して、出資してくれる場合も。こうした投資家をエンジェル投資家といいます。現代ではエンジェル投資家と企業をつなぐマッチングサイトもあるため、以前よりエンジェル投資家からの出資を受ける機会は拡大しています。
ソーシャルレンディングによる出資
そのほか、ソーシャルレンディングを通じて株の所有権を小口化して個人投資家などに販売するサービスも出てきています。このサービスを活用すれば、上場企業でなくとも個人から資金を調達することができます。
増資
最後に、主に上場企業や大企業が取る手法が、ここまでの手法以外の「増資」です。特に広く一般的の投資家から出資者を募る増資が「公募増資」で企業が魅力的であれば多額の資金調達を実現できる可能性もあります。
また、既存の株主に株式を割り当てる株主割当増資や、現時点では株主ではない特定の第三者に株主を割り当てる第三者割当増資があります。先に紹介したファンドからの出資も、実務上はこれらの増資を通じて実行されます。これらの増資を活用すれば、企業の利害関係者、既存の投資家などからエクイティファイナンスによる資金調達を行うことも可能です。
アセットファイナンス(資産売却)のメリット・デメリットや具体的な手法
アセットファイナンスは、保有資産の売却・現金化する資金調達手法です。利息支払い・配当いずれも必要なく、また即効性のある方法が多いのがメリットです。一方で、そもそも売却できる資産がなければ実行できない資金調達手法であるのがネックと言えます。
アセットファイナンス(資産売却)のメリット
アセットファイナンスのメリットは次のとおりです。
アセットファイナンスは、通常単なる資産売却であるため、売却したのちは負債や株のように資金の出し手へ利息や配当など支払うものはありません。長い目で見た時にはコストがあまりかからない資金調達手法です。
また、ファクタリングなど一部の手法では即日で現金化ができるなど、資金調達を迅速に行えるのがメリットです。他の資金調達手法は審査や投資家集めなどに時間がかかる場合もあるため、特にすぐに資金が必要な時には役にたつ資金調達手法となります。
資産売却によって得た現金を負債返済に使用すれば、バランスシートの圧縮になります。経営効率の指標にはROEのほか利益を総資本で割るROAもあります。アセットファイナンスではROAを高められます。
アセットファイナンス(資産売却)のデメリット
アセットファイナンスのデメリットは次の二つです。
余剰資産や売掛債権など現金化に使える資産がなければ、そもそもこの資金調達は実行できません。売却可能な資産を豊富に保有していた方がアセットファイナンスの余地が大きくなりますが、そもそも簡単に売却できる資産を豊富に保有しているということは、経営上無駄が多いことを意味するため、これはこれで必ずしも望ましいとはいえません。その点、売掛債権の売却を通じて現金化するファクタリングなどは有効なアセットファイナンスの一つといえるでしょう。
一方で、売却時に価格が割り引かれたり、ファクタリングのように現金化において手数料が発生するケースが多いのもデメリットといえます。できるだけ低コストで資金調達できる方法を探すようにしましょう。
アセットファイナンス(資産売却)の方法
アセットファイナンスに属する具体的な資金調達の方法としては、次のようなものがあります。
資産売却
本業と関係がない、関連性が薄い資産を売却すれば、本業への影響を避けながら資金調達が可能です。例えば、有効活用できていない土地や不動産の売却などは有効な手段の一つと言えるでしょう。
不動産など流動性の低い資産の売却は、売却先との交渉や仲介業者の言い値によって売却価格が変動します。時には簿価や評価額より大幅に安く買い叩かれてしまうリスクがあるため、信頼のおける業者選びや丁寧な価格交渉をすることが大切です。
ファクタリング
売掛債権の現金化をファクタリングと言います。ある程度のビジネス規模になると、業種によっては日常的に売掛債権が発生します。ファクタリングは無駄な余剰資産ではなく、かつ本業への影響も避けながら資金調達を行える点で優れています。
また、最短で即日で現金化ができる迅速性も魅力です。一方で、ファクタリング会社によっては高額な手数料が発生するので、ファクタリング会社選びは慎重に行いましょう。
事業売却
収益性・成長性が見込めない、事業・子会社などを丸ごと売却して資金調達をすることも可能です。現代ではしばしばM&Aによって不採算事業の売却が行われます。
多額な資金調達につながる手法である一方、企業の他の事業のシナジーなど目に見えない効果も加味して売却対象の事業を選定しなければ、思わぬ形で企業の成長力や競争力を削ぐリスクがあるので注意しましょう。
その他の資金調達手法について
最後にその他の資金調達手法について簡単にまとめておきます。その他の資金調達手法の一つとして補助金・助成金があります。これらのうち返済不要なものは、リスクや弊害なく資金を獲得できるため積極的に活用しましょう。
補助金・助成金のネックは、自治体や公共団体などが指定する条件に当てはまらなければ調達ができないことと、制度が多様化・複雑化しており、どの補助金・助成金を活用すれば良いのか分かりづらいことです。本社の立地や経営規模、業種などを踏まえて、適用可能な補助金・助成金を精査し、制度を有効活用してください。
自己資金については本来自分の家計を支える資金であるため、経営者だからといってむやみに投じるのは禁物です。自分の生活が脅かされない程度の拠出で済み、かつ企業の成長性が見込める場合に限り検討しましょう。
状況別の有効な資金調達の選択肢
企業の資金調達には多様な手段がありますが、適した方法は企業によって様々です。ここでは、特に資金調達の手段が限られる、代表的な幾つかのケースにおいて、有効な資金調達の選択肢を紹介します。
創業まもない時期の資金調達
創業間もない時期の有効な資金調達は次のとおりです。
創業最初期の開業資金は自己資金で賄うケースが多いです。最低限の成長の見通しが立たなければ、ほとんどの主体は資金を提供してくれないためです。続いて検討しやすいのは助成金や補助金です。中には起業支援の目的で開業準備や開業まもない企業の経営資金を提供してくれる制度もあるので、積極的に活用しましょう。
ある程度現実的な事業計画がまとまれば、日本政策金融公庫の借入も視野に入ります。同組織は金融機関の中でも中小企業の成長支援を重要なミッションとして掲げているため、他の金融機関と比べると、実績のない企業でも資金を提供してくれる可能性があります。
最後にエンジェル投資家やファンドの中には、創業まもない企業の成長性に投資する先が少なからず存在します。事業計画が評価されて彼らの出資を得ることに成功すれば、さらにビジネスを加速させられるでしょう。
経営難における資金調達
経営難における有効な資金調達は次のとおりです。
企業経営が危ぶまれると、倒産リスクを背景に資金を提供してくれる主体が限られてきます。こうした時にはまずアセットファイナンスを活用するのが定石です。充分な資産価値が見込める不動産などの資産売却や、ファクタリングを積極的に活用しましょう。
そのほか状況によっては助成金や補助金を適用できる場合もあります。また日本政策金融公庫のような政府系の金融機関に相談するのも良いでしょう。同行では経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)といった制度を導入しているなど、危機に陥った企業の救済を積極的に行っています。
M&A(買収)における資金調達の選択肢
M&Aで企業や事業を買収する場合の資金調達の選択肢は次のとおりです。
一般的にM&Aによる買収は企業の成長を加速させるために行います。そのため企業が成長した時に大きな収益が期待できる株式を通じた資金調達の方が相性が良いと言えるでしょう。その意味では増資を行ってエクイティファイナンスを行うのが有効な選択肢となります。
対して「LBO」とは、買収先の事業から生み出されるキャッシュフローなどを担保として取り組む資金調達手法で、担保が買収予定の企業である点は特殊ですが、デットファイナンスの一種となります。中小企業では機動的な増資は困難なため、LBOなどによるデットファイナンスも盛んに活用されます。
銀行融資も健全性が高い企業であれば検討可能です。特に地銀や大手銀行など資金力のある銀行からの融資を受けられれば、買収資金の手当てが一気に前進するでしょう。ただし、銀行は「返済の安定性」を重視して評価するため、財務の圧迫につながりやすい買収はあまり好みません。
融資を活用できるのは、企業の元々の健全性が高く、かつ買収後の経営計画が堅実であると評価できる場合に限られます。
多様な資金調達の手法うまく使い分けるのが望ましい
企業の資金調達はデットファイナンス、エクイティファイナンス、アセットファイナンスが存在します。それぞれの資金調達のメリットとデメリットをふまえたうえで、成長フェーズや企業が置かれた環境、資金調達にかかるコストを踏まえて最適な手法を選択することが大切です。
今回の記事を参考に、自社にとって最適な資金調達計画を策定しましょう。